1.工事進行基準と工事完成基準 請負工事の収益計上の時期に関して、工事の完成及び引渡しが完了する前の時点で工事 収益の一部を計上する方法を工事進行基準といいます。 それに対して、工事が完成し、引渡しが完了した時点でその工事の請負総額を計上する方 法を工事完成基準といいます。 収益計上は原則的に「実現主義」によることとされています。すなわち、商品、製品等を実際 に販売し、売上債権が確定(実現)した時点で売上高を計上します。 この会計基準を工事売上にあてはめれば、完成工事の引渡し時点で完成工事高を計上する 「工事完成基準」となります。 しかし長期の請負工事(工事期間が1年以上)、特に工事金額が多額になるものについて 工事完成基準を採用すると期間損益を歪めることになります。 例えば、ある大型工事の完成時期が事業年度末日であればその年度の利益が大きく増える 一方、完成時期が延長し、翌期の引渡しとなれば、翌年度の損益に算入されてしまいます。 このような欠点を補うべく、工事利益は工事の進捗に応じて次第に形成されていくという考え に基づき、事業年度末時点での工事進捗度とその工事の予想利益をもとに当期分の工事収 益を見積り計上する方法が工事進行基準です。 2.工事進行基準の計上方法 (1) 算定方法 工事進行基準での収益計上は一般的に総工事原価見積額に対する実際発生原価の比率 で計算されます。 当期完成工事高 = 総請負金額 × 当期発生工事原価 / 総工事原価見積額 (2) 仕訳例(税抜) a) 事例 工事請負総額 120,000,000 円 工事原価見積額 80,000,000 円 第20期工事原価実際額 50,000,000 円 第21期工事原価発生額 30,000,000 円 b) 第20期 完成工事未収入金 75,000,000 円 / 完成工事高 75,000,000円 完成工事原価 50,000,000 円 / 未成工事支出金 50,000,000円 c) 第21期 完成工事未収入金 45,000,000 円 / 完成工事高 45,000,000円 完成工事原価 30,000,000 円 / 未成工事支出金 30,000,000円 3.工事進行基準の適用範囲 (1) 適用範囲業種 土木・建築、プラント建設、造船、大型機械装置の製造等の他、受注制作のソフトウェアにつ いても対象とされます。 (2) 税務上の取扱い (ⅰ) 工事進行基準の強制適用 平成20年度より工事期間が1年以上かつ請負対価が10億円以上の工事については工事 進行基準が強制適用されます。また、赤字工事についても同様に適用されます。 (ⅱ) 選択適用 上記以外の工事については工事進行基準と工事完成基準の選択適用となります。 工事進行基準を採用する場合は会社の規模等を勘案し、経理規程等で同基準の適用範囲 を定め、毎期継続して適用する必要があります。 (3) 会計基準における取扱い (ⅰ) 平成19年12月に 「 工事契約に関する会計基準 」 が公表されました。 概要は以下のとおりです。 (a) 従来は工事収益の計上基準について、一定規模以上は工事進行基準、その他は 「 工事完成基準 」 と 「 工事進行基準 」 の選択適用とされていました。 (b) 今後は次のとおりとなります。 ① 工事の進行中において、工事収益総額、工事原価総額、工事進捗度について確実性と 信頼性をもって見積もることができる場合は工事進行基準を採用する。 ② 上記以外の場合は工事完成基準を採用する。 (ⅱ) 上記の公表を受け、平成21年4月 「 中小企業の会計に関する指針 」 も改訂され、 「 工事契約に関する会計基準 」 と同様の内容となりました。 従って、今後は中小企業においても工事原価総額や工事進捗率等を確実性と信頼性を もって見積もることができる場合は工事進行基準を適用することを原則とし、この要件を満 たさない場合は工事完成基準となります。 4.工事進行基準と消費税 工事進行基準を採用している場合、消費税法上の課税売上の計上時期については次のい ずれの処理をしても良いとされています。 (1) 工事物件の引渡し時に課税売上とする。 この場合は、(税抜処理を前提とすると)会計上は完成工事高として収益計上しても仮受消 費税は計上されないことになります。 (2) 工事進行基準によって完成工事扱いされた部分を課税売上とする。 この場合は、損益計算書上の完成工事高と仮受消費税との整合性が確保されますが、 「 課税売上 」 の計上時期については、消費税の原則である 「 課税物件の引渡し時 」 では なく、 「 課税期間ごと 」 という例外的な扱いになります。