1.改正の概要 (1) 償却可能限度額と残存価額の廃止 従来は償却可能限度額(取得価額の95%)まで償却し、除却するまで残存価額(取 得価額の5%)を簿価として残していました。 今後は残存価額を廃止し、法定耐用年数内に1円(備忘価額)まで償却できます。 (2) 250%定率法の採用 250%定率法とは、定額法の償却率(1/耐用年数)を2.5倍した償却率のことです。 定率法で償却する場合、従来の定率法の償却率ではなく、この250%定率法を用いる こととなり、従来に比べより早期に償却できることとなりました。 (3) 償却方法に係る名称 従来の定額法、定率法、生産高比例法は旧定額法、旧定率法、旧生産高比例法と呼 ばれることとなり、今後は単に定額法、定率法と言えば、改正後の各方法を指します。 2.平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産 (1) 償却方法 従来の旧定額法、旧定率法等の償却方法(償却率)で償却します。 旧定額法 (取得価額-残存価額)×償却率 旧定率法 (取得価額-既償却額)×償却率 (2) 償却可能限度額(取得価額の5%)まで達した資産 償却可能限度額まで償却した事業年度の翌事業年度から、次の算式により5年間で残 存簿価1円まで均等償却します。 償却限度額=[取得価額×5%-1]×事業年度月数/60 平成19年4月1日以後に開始する事業年度からの償却となります。 3.平成19年4月1日以後に取得する減価償却資産 償却可能限度額・残存価額が廃止され、耐用年数経過時点に残存簿価1円まで償却で きるよう次の各方法により償却します。 (1) 定額法による減価償却 取得価額×(新)償却率 (注1) 従来は取得価額の90%に償却率を乗じていましたが、残存価額の廃止に伴い 取得価額に直接償却率を乗じます。 (注2) 定額法の新償却率は端数切捨てから端数切上げに改定されています。 (2) 定率法による減価償却 250%定率法で償却しますが、特定事業年度以後は均等償却し、耐用年数経過時 点で残存簿価1円となります。 特定事業年度となる前の各年度 (取得価額-既償却額) × 定率法の償却率 (250%定率法) 特定事業年度以後の事業年度 改定取得価額 × 改定償却率 4.定率法の償却計算について (1) 250%定率法 従来の定額法の償却率に2.5倍を乗じた率で、算式で示すと次のようになります。 償却率 = (1/耐用年数)×250% なお、耐用年数が2年の場合は償却率は1となりますが、月割計算することとなり即時 償却できるとは限りません(次式参照)。 初年度償却額 = 取得価額 × 1.0 × 事業供用月数/12 (2) 特定事業年度 250%定率法の償却率で償却しても1円になるまでには耐用年数をはるかに超えた年 数が必要になってしまいます。そこで、定率法による償却額と、残存簿価を耐用年数内に 均等償却した場合の額を比較し、均等償却額の方が多くなった事業年度では均等償却 する方法に切り換える必要があります。 このように定率法から均等償却(定額法)に切り換える事業年度を特定事業年度と呼 び、特定事業年度以後の各年度は均等償却することになります。 (3) 改定取得価額と改定償却率 特定事業年度以降は定額法に切り換え、前期末の簿価を残存耐用年数内に1円まで 均等償却します。これを算式で示すと次のようになります。 前期末簿価×(1/残存年数) このように定額法に切り換えた際の償却計算における取得価額と償却率がそれぞれ改 定取得価額と改定償却率です。 改定取得価額=前期末簿価 改定償却率=(1/残存年数) (4) 調整前償却額 特定事業年度以前の各年度では定率法による償却額と定額法による償却額とを比較 し、定率法による償却額が多い時に限りその額が償却限度額とされます。 そこで、次の用語が使われることになります。 定率法による償却額=調整前償却額 (5) 償却保証額と保証率 定率法から定額法にどの時点で切り替わるかについては、耐用年数毎にあらかじめ定 められています。 例えば、耐用年数が10年の場合は8年目が定額法に切り替わる年です。 (実際にシミュレーションして見れば分かります。) 耐用年数が定まれば定額法に替わる年とその際の残存耐用年数及び残存耐用年数に 係る定額法の償却率(改定償却率)が決まってしまいます。 同時に、定率法で計算する年度の数(例えば耐用年数10年なら7年間)とそれに伴う 残存簿価率(未償却残高率)及びその率を残存耐用年数で割った率(=保証率)も決まり ます。 つまり、耐用年数が決まれば、調整前償却額(定率法による償却額)と比較される定額 法による償却額(=償却保証額)は自動的に決まり、次の算式で示されることになります。 償却保証額=取得価額×保証率 (6) 償却限度額計算の総括 以上をまとめると償却限度額は次のとおりとなります。 (1) 取得(事業供用)事業年度 償却限度額=取得価額×定率法の償却率×供用月数/12 (2) 次年度以降 調整前償却額=期首簿価×定率法の償却率 償却保証額=取得価額×保証率 (ⅰ) 調整前償却額>償却保証額の時 償却限度額=調整前償却額=定率法による償却額 (ⅱ) 調整前償却額<償却保証額の時 償却限度額=改定取得価額×改定償却率 (3) 最終年度 償却限度額=「前期末簿価-1円」 5.既存の減価償却資産に対して資本的支出を行った場合 (平成19年4月1日以降に資本的支出を行った場合) (1) 原則 その資本的支出は既存の資産と種類及び耐用年数を同じくする別個の資産を新規に 取得したとみなされ、償却方法については改正後の方法を用います。 (2) 特例①(平成19年3月31日以前に取得した資産に資本的支出を行った場合) 既存の減価償却資産の取得価額に資本的支出を加算し、既存の資産の耐用年数及び 償却方法に基づいて、資本的支出部分も含めた減価償却資産全体の償却を行う。 (3) 特例②(改正後の定率法を採用している資産に資本的支出を行った場合) 旧資産の簿価と資本的支出部分の簿価の合計額を取得価額とする1個の資産を、資 本的支出をした年度の翌事業年度開始の日に取得したものとして償却することができま す。 資本的支出の翌事業年度期首に本体と資本的支出部分を合算することができます。 耐用年数等については既存の資産に係る数値を適用します。 また、資本的支出を複数回行った場合、それらを合算し一個の減価償却資産を取得し たものとして償却計算をすることができます。 6.新償却方法と固定資産税との関係 固定資産税の償却資産については、現行の償却方法が維持され、5%の残存簿価が 残ります。 7.非事業用資産の減価償却方法 (1) 非事業用資産の譲渡所得の計算 個人の自宅などの家屋を譲渡した場合の譲渡所得の計算は以下のようになっています。 (a) 譲渡所得 = 譲渡収入 - 取得費 (b) 取得費 = 取得価額 - 償却費相当額 (2) 償却費相当額の計算 非事業用資産の減価償却費は以下のように計算し、改正前の償却方法と同じです。 すなわち、今回の償却方法の改正は非事業用資産には適用されません。 (a) 償却方法 → 定額法 (b) 耐用年数 → 法定耐用年数 × 1.5 (c) 残存価額 → 10% (d) 償却費相当額 = 取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数