1.貸倒引当金とは 売掛金、受取手形、貸付金等の金銭債権の貸倒れによる損失の見込額を費用計上した際に 貸借対照表に計上される科目を貸倒引当金といいます。 貸倒れによる損失は相手先の倒産等とその後の法的手続などによって初めて確定します。 しかし事業活動においては貸倒れは必然的に発生するものであり、債権の発生が貸倒れ発 生の原因となっているという認識、すなわち発生主義会計の考え方に基づいて引当金を計上 することが会計基準等で求められており、これを受けて税法においても一定額の引当金の繰 入が認められています。 2.貸倒引当金の仕訳 貸倒引当金の繰入れ、戻入れについての仕訳方法は単一ではありませんが、税法で認められ た仕訳としては次の方法が一般的です。 (1) 当期末での貸倒引当金の計上 (借方) 貸倒引当金繰入額 ××× / (貸方) 貸倒引当金 ××× (2) 翌期の事業年度末での洗替仕訳 (借方) 貸倒引当金 ××× / (貸方) 貸倒引当金戻入益 ××× (借方) 貸倒引当金繰入額 ××× / (貸方) 貸倒引当金 ××× (3) 貸倒損失が発生した時 (借方) 貸倒損失 ××× / (貸方) 売掛金等 ××× 3.税法における繰入限度額 (1) 個別評価金銭債権 (ⅰ) 更正計画認可の決定等による場合 (a) 法的要件 (イ) 会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生 計画認可の決定 (ロ) 民事再生法の規定による再生計画認可の決定 (ハ) 商法の規定による特別清算に係る協定の認可 (ニ) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるもの ⅰ) 債権者集会の協議決定で合理的基準により債務者の負債整理を定めているもの ⅱ) 行政機関、金融機関その他第三者の斡旋による協議により締結された契約でその内 容が ⅰ) に準ずるもの (b) 繰入限度額 繰入限度額 = (イ) - (ロ) (イ) 弁済を猶予され、または賦払いにより弁済されることとなった金額 (ロ) 5年以内に弁済される金額及び質権・抵当権等により担保されている金額 (ⅱ) 債務超過等の場合 (a) 実質的経済的要件 以下の事由が生じていることにより、債権取立て等の見込みがないと認められる場合 (イ) 債務超過の状態が相当期間継続し、その営む事業に好転の見通しがないこと (ロ) 災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたこと (ハ) その他これに類する事由 (b) 繰入限度額 繰入限度額 = (イ) - (ロ) (イ) 対象債権 (ロ) 質権・抵当権等により担保されている金額 (ⅲ) 破産手続開始の申立て、手形不渡等の場合 (a) 法的要件 (イ) 会社更生法または金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生 手続開始の申立て (ロ) 民事再生法の規定による再生手続開始の申立て (ハ) 破産法の規定による破産手続開始の申立て (ニ) 商法の規定による整理開始または特別清算開始の申立て (ホ) 手形交換所による取引停止処分 (b) 繰入限度額 繰入限度額 = [ (イ) - (ロ) - (ハ) ] × 50% (イ) 対象債権 (ロ) 実質的に債権とみられない部分の金額 (債務者に対する買掛金・支払手形・借入金等) (ハ) 質権・抵当権等により担保されている金額 (ⅳ) 外国の政府等に対する個別評価金銭債権 (略) (2) 一括評価金銭債権 (ⅰ) 一括評価金銭債権の金額 売掛金、貸付金、営業未収金等の金銭債権のうち個別評価金銭債権を除いたもの (ⅱ) 繰入限度額 (法人) (a) 原則 繰入限度額 = 一括評価金銭債権 × 過去3年間の貸倒実績率 (b) 中小法人の特例 資本金1億円以下の普通法人、公益法人等または協同組合等については法定繰入率と 貸倒実績率との選択適用が認められています。 法定繰入率を選択した場合の繰入限度額は以下のようになります。 繰入限度額 = 一括評価金銭債権 × 法定繰入率 (c) 中小法人における法定繰入率 (イ) 卸売業および小売業……1,000分の10 (ロ) 製造業……1,000分の8 (ハ) 金融および保険業……1,000分の3 (ニ) 割賦販売小売業および割賦購入斡旋業……1,000分の13 (ホ) その他の事業……1,000分の6 (ⅲ) 繰入限度額 (個人) 個人事業における貸倒引当金は一律に5.5%(又は3.3%)と定められ、実績率による 繰入は認められていません。 事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者に適用されます。 繰入限度額 = 金銭債権合計額 (注) × 5.5% (金融業は3.3%) (注) 実質的に債権とみられない額及び個別評価の対象となった金額を除きます。